CH291|Lounge Chair
材質
Hans J. Wegner, 1962
木の構造と、身体をあずけるための柔らかさ

一見すると、CH291はきわめて素朴なラウンジチェアです。
木のフレームの上にクッションを置き、背を高くしただけのようにも見えます。しかし、少し距離を置いて眺め、側面や背面へ回ってみると、その印象は変わります。
前脚からアームへ、そして座枠から後脚へと続く線。後方へ大きく傾斜した脚。背面に並ぶ水平の桟。そして、そこへ独立したクッションを納めるという構成。
CH291では、椅子を成立させているものがほとんど隠されていません。
木は木として骨格をつくり、クッションは身体を受け止める。それぞれの役割が明快に分けられているところに、ハンス J. ウェグナーの家具らしさを見ることができます。
1962年に生まれたCH290シリーズ

CH291は、ウェグナーが1962年にデザインしたCH290シリーズのハイバックモデルです。
シリーズは、ローバックとハイバックのラウンジチェア、2人掛けと3人掛けのソファ、そしてフットスツールから構成されています。
共通するのは、幅のあるアームレスト、傾斜した脚部、背面に見える木製のスラット、そしてフレームから独立したクッションです。
同じウェグナーの家具でも、CH24《Yチェア》のように部材を細く削り込みながら軽さを求めた椅子とは性格が異なります。
CH291ではむしろ、ある程度の木の量を残しています。
太さのある部材を用い、それらを素直に組み合わせることで、家具に必要な強度をそのまま造形として見せています。それでいて重々しく見えないのは、後方へ伸びる脚と、床から浮いた座面によって、フレームに視覚的な動きが与えられているからでしょう。
ハイバックであること

CH291をCH290から特徴づけているのが、高く伸びた背もたれとネックピローです。
身体を深く預けるラウンジチェアでは、背中だけでなく、肩や頭をどのように支えるかが座り心地を大きく左右します。
CH291では、背の角度に沿って身体を後方へ預けることができ、その先にネックピローが置かれています。
興味深いのは、快適性を得るためにフレームそのものを厚く覆ってしまわなかったことです。
木の背には水平のスラットが残り、その前にクッションが置かれます。後ろから眺めれば、椅子がどのようにつくられているのかがよく分かります。
ウェグナーは、快適さのために構造を消すのではなく、構造を残したまま快適にする方法を考えたのでしょう。
背面を見る家具

良い椅子には、後ろ姿の美しいものが少なくありません。
CH291もそのひとつです。
背面に並ぶ横桟、左右のフレーム、外側へ開きながら床へ向かう後脚。その組み合わせには正面とは違った緊張感があります。
壁際へ置くことだけを前提とした椅子ではなく、部屋の中央に置いたときにも成立する。
これは単に「360度美しい」という装飾的な意味ではありません。家具の構造が整理されていれば、裏側まで自然に美しくなるということです。
ウェグナーの家具を理解するとき、この「裏側を見る」という行為はとても重要です。
木とクッション

現行のCH291では、FSC™認証を受けたオーク材によるフレームに、ファブリックまたはレザーのクッションが組み合わされます。
硬質な木と柔らかな張地。
直線的なフレームと、身体によってわずかに形を変えるクッション。
CH291の魅力は、この異なる性質をひとつに溶かしてしまわず、それぞれをそれぞれのまま見せているところにあります。
木製家具でありながら、木だけを主役にしない。
張りぐるみのラウンジチェアでありながら、クッションによって構造を隠さない。
その中間にあることが、この椅子独特の軽やかさにつながっています。
GETAMAから、カール・ハンセン&サンへ
この家具を語るうえで、GETAMAの存在を切り離すことはできません。
GETAMAは、長くウェグナーの張り家具を製造してきたデンマークの家具メーカーでした。2024年2月には同社の工場が大規模な火災に見舞われ、その後、ウェグナーやナナ・ディッツェルを含むGETAMAの家具事業についてカール・ハンセン&サンとの協議が進められました。2025年初頭には、GETAMAの名称と関連事業の取得が完了しています。
家具の復刻というと、昔の形を再びつくることだと思われがちです。
しかし、本当に残さなければならないのは外形だけではありません。
どの部材を木でつくり、どこにクッションを置き、どの角度で身体を支えるのか。
その家具が成立している理由そのものを受け継ぐ必要があります。
CH291を眺めていると、「名作を残す」ということの意味についても、少し考えさせられます。



