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はじめに
北欧の椅子を語るとき、必ず名前が挙がる2脚があります。
ひとつは、ハンス・J・ウェグナーの「Yチェア」。
もうひとつは、アルネ・ヤコブセンの「セブンチェア」。


どちらもデンマークを代表する名作であり、今も世界中で使われ続けている椅子です。
ただ、この2脚は似ているようで、
実はまったく違う考え方から生まれています。
今回はその違いを、見ていきます。
1|つくり方の違い
クラフトか、工業か



まず大きな違いは、つくられ方です。
Yチェアは、木を削り、組み、ペーパーコードを編み込む。
多くの工程に職人の手仕事が関わっています。
一方セブンチェアは、成形合板のシェルをプレスで成形し、
スチール脚と組み合わせることで成立しています。
- Yチェア=クラフトをベースにした量産
- セブンチェア=工業技術による量産
どちらも量産品ではありますが、
そのアプローチは大きく異なります。
2|デザインの考え方
構造か、輪郭か

Yチェアは、構造そのものがデザインになっています。
Y字の背もたれや、木部の接合部。
どう支えるか、どう組むかが、そのまま美しさになっている。
対してセブンチェアは、一枚のシェルで構成された、連続した曲線のデザインです。

どこか一点ではなく、全体のシルエットで成立している。
- Yチェア=構造の美しさ
- セブンチェア=輪郭の美しさ
同じ“シンプル”でも、その中身はまったく違います。
3|素材の捉え方
自然か、技術か

Yチェアは、木という素材の魅力をそのまま引き出しています。
木目や質感、経年変化。
使いながら育っていくような感覚があります。
一方セブンチェアは、
成形合板という加工された素材を前提としています。

そこでは、素材の個性よりも、
形を実現するための技術が優先されている。
- Yチェア=素材を活かす
- セブンチェア=素材を使いこなす
この違いが、印象の差にもつながっています。
4|空間の中での役割
主役か、背景か

Yチェアは、一脚でも存在感があります。
木の質感や構造の表情が、空間の中で自然と目に留まる。

対してセブンチェアは、複数脚並べたときにその魅力が際立ちます。
空間に溶け込みながら、全体のバランスを整える。
- Yチェア=一脚で成立する椅子
- セブンチェア=空間の中で成立する椅子
そんな違いも見えてきます。
5|どちらが優れているのか
ここまで読むと、
「結局どっちがいいのか」と思うかもしれません。
ただ、この2脚は競うものではありません。
クラフトの延長にあるYチェアと、
工業デザインの到達点としてのセブンチェア。
どちらも、同じデンマークという国の中で生まれながら、
まったく違う方向から良い椅子を目指しています。
おわりに|北欧デザインはひとつじゃない
北欧デザインという言葉は、ときにひとつのイメージで語られがちです。
ただ実際には、
・手仕事を大切にする流れ
・工業技術を取り入れる流れ
その両方が共存しています。
Yチェアとセブンチェアは、
その象徴のような存在です。
もし選ぶときは
どちらが優れているかではなく、
どちらが自分の暮らしに合うか。

木の温かさに惹かれるのか。
軽やかでミニマルな空気感を求めるのか。

その視点で選ぶときっと納得のいく一脚に出会えるはずです。