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コラム

アルネ・ヤコブセンの建築作品を訪ねてきました

デンマークを訪れるなら、絶対に見ておきたかった場所。
それは、アルネ・ヤコブセンが手がけた建築たち。家具では知っているつもりだったけれど、建築に実際に触れたとき、きっと何かが変わる気がしていました。

訪れたのは、SASロイヤルホテル、Rodovre市役所、そしてベルビュー地区
どれも雰囲気がまったく違っていて、それぞれの場所に「ヤコブセンらしさ」が静かに息づいていました。

SASロイヤルホテル──デザインホテルの原点で過ごす時間

コペンハーゲン中央駅のすぐ近くに建つ、ひときわ背の高いグレーのビル。
それが、かの有名なSASロイヤルホテル(現・ラディソン コレクション ロイヤルホテル)

建物の外観は、正直言って割と地味。笑
ガラスとアルミパネルのミニマルな構成で、街の中では無機質にも見える。でも中に一歩足を踏み入れた瞬間、その印象はがらっと変わります。

ロビーには曲線の美しいエッグチェアとスワンチェアがゆったりと並び、光沢のある石材の床、壁に反射する照明の柔らかさ、すべてが静かに美しい。

家具単体では何度も見ていたはずなのに、建築空間の中に置かれたその椅子たちは、まるで違う表情をしています。
「ああ、この椅子はこうやって使われるために生まれたんだ」と、初めて実感を伴って腑に落ちた気がしました。

606号室(オリジナルのインテリアが残る「伝説の部屋」)には今回は入れなかったけれど、ロビーだけでも充分すぎるほどに、ヤコブセンの世界を体感できた。

ヤコブセンの手の形のドアノブ

このホテルにおいてヤコブセンは、建築だけでなく、内装・家具・照明・テキスタイル・カトラリー・サイン計画に至るまで、すべてを手がけました。
彼が描いたトータルデザインの哲学が、いまもホテル全体に漂っていました。

Rodovre市役所・図書館──市民に開かれた、透明な建築

次に向かったのは、コペンハーゲン郊外の街、Rodovre(レズヴィエ)
ここにはヤコブセンが1956年に設計した市庁舎がある。あまり知られていないが、彼の“公共建築”に触れるには絶好の場所だ。

ファサードは大きなガラス面と水平ラインが特徴的で、いかにもモダニズムらしい構成。でも冷たい感じは全然しない。
むしろ、外から中がよく見えるその透明性に、市民への誠実さや開かれた精神を感じます

中に入ると、思わず足を止めてしまう。
吹き抜けの空間に伸びる階段、その手すりの曲線、光の入り方。
ディテールのひとつひとつが控えめだけど計算され尽くしていた。

ベルビュー地区──ヤコブセンのデザインした高級リゾート地

最後に訪れたのは、コペンハーゲンの北に広がるベルビュー地区
海沿いに整備されたレジャーエリアで、ヤコブセンが1930年代に多くの施設を手がけている。

目的地は、有名な白×ブルーのストライプ柄の監視塔(ライフガードタワー)

遠くからでもその存在感は際立っていて、青空と海の水平線に、まるで浮かぶように佇んでいた。

でも、それだけじゃなかった。
このエリアにはヤコブセン設計の住宅群や、劇場、売店などが点在していて、散策するたびに彼の小さな痕跡に出会える。

中でも印象に残ったのが、テキサコのガソリンスタンド


シンメトリーで無駄のないフォルム、白く塗られた鉄骨とガラスの対比が、とても洗練されていた。

ガソリンスタンド内のアイスクリーム屋さんで、休憩がてらひとつ。
ヤコブセンの世界に入り込んだような不思議な幸福感がありました。

おわりに──建築を体験するということ

写真で見るヤコブセンの建築と、現地で体感するそれとは、まるで違って。
素材の質感、光、椅子の座り心地、床のきしみ……五感を通してヤコブセンの建築を体感しました。

建築は、写真では伝わらない。
やっぱり、行ってみて、座って、歩いて、感じることが、何より大切なのだと改めて。

この旅を通して、自分の中でヤコブセンという人物がようやく“ひとりの人間”として立ち上がってきた気がしました。

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