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Yチェアとザ・チェアを比較|ウェグナーが1949年に生んだ二大名作椅子の違い

ハンス・J・ウェグナーが1949年に生み出した二脚の椅子――「Yチェア(CH24)」と「ザ・チェア(PP501/503)」。同じ年に誕生したにもかかわらず、その性格も歩んだ道筋も大きく異なります。両者を比較すると、ウェグナーというデザイナーが持っていたレンジの広さ、そして彼が椅子をどう捉えていたかが浮かび上がってきます。

First Masterpieces ― カール・ハンセン&サンと最初の傑作たち

ウェグナーが1949年にデザインした5脚
右奥のチェアがCH26

1949年、ウェグナーはホルガー・ハンセンの招きでオーデンセにあるカール・ハンセン&サンの工場に滞在します。在籍最初の3週間(21日間)で、職人と協働して4脚の「試作椅子」をまとめ上げました。CH22、CH23、CH24(Yチェア)、そしてCH25。後に「First Masterpieces(最初の傑作群)」と呼ばれるシリーズです。

同系列のCH26も設計されていましたが、当時は図面止まり。実際に製造されたのは2016年になってからのことでした。こうして短期間で次々とアイデアを形にできたのは、ウェグナーが「まず家具職人であり、その次にデザイナー」であったからに他なりません。

この中で最も広く普及したのがCH24、すなわち「Yチェア」です。

実は発表当時はCH23の方が注目されていたとか…
それと、3週間の間で5脚をデザインしたと言われてはいますが、さすがに椅子のデザインはそう簡単ではありません。ウェグナーも以前からアイデアは温めていたそう。

ザ・チェア ― 座る彫刻品

ザ・チェア(PP501/PP503)
北海道にて、織田先生のコレクションを拝見。ウェグナーがつくったプロトタイプのザ・チェア。

一方、同じ1949年にデザインされた「ザ・チェア」は、円形の背とアームが途切れなく続くフォルムを持つ肘掛け椅子。後に「世界で最も美しい椅子」と称される傑作です。ウェグナー自身も「初めて自分の良さを出せた」と語ったとされるほどの自信作でした。

籐張りのザ・チェア
籐張りのザ・チェア製品化第1号

ただし発表当初は、その素朴さから「みにくいアヒルの子」と揶揄されたこともあります。しかし1960年の米大統領選テレビ討論会でケネディとニクソンが使用したことで一躍脚光を浴びました。椅子そのものが前に出るのではなく、人を引き立てる――「人が座ると椅子の存在が消え、座る人を美しく見せる」と評される理由がここにあります。

用途としては、やや低めの座面と奥行きあるサイズ感から、食卓というより応接やラウンジを想定。厚みのある丸棒のアームは長時間でも疲れにくく、まさに「座る彫刻」と呼ぶにふさわしい快適性を備えています。ヨハネス・ハンセン工房での少量生産ゆえ、木工継手や籐張り座面(PP501)など、純然たるクラフトの結晶でもありました。

3daysofdesignでの実演
今年の3daysofdesignにて、PPモブラーの実演。

現在ザ・チェアはデンマークの PPモブラー(PP Møbler) によって生産されています。少量生産で一脚およそ100万円~という価格は、Yチェア約10脚分。芸術性とクラフトの粋を凝縮した一脚だからこそ、こうした希少性と価格帯になっているのです。

Yチェア ― 日常の名作

ウェグナーとYチェア

対照的に、Yチェアは「庶民のための椅子」としてデザインされました。カール・ハンセン&サン社とともに、量産とクラフトのバランスを追求した椅子です。

Yチェアの笠木とY字パーツ
Y字型のパーツは、持ち手としての役割を直感的に理解させる機能美を備えている。

背もたれとアームを兼ねる半円形のフレームを支える「Y字型」のパーツは構造上の必然から生まれたもので、シンボリックな造形でありながら実用性の核心でもあります。

Y字パーツは合板
Y字パーツはカーブした笠木にひねって差し込むために合板でつくられる

座面には約120メートルのペーパーコードを職人が一脚ごとに編み上げ、完成までに100以上の工程を要します。それでもパーツ自体は機械加工が可能で、当初から量産を見据えた構造でした。

そのためYチェアはダイニングでの日常使いに最適であり、今日に至るまで世界中の家庭で愛用され続けています。

価格差が物語るもの

ザ・チェアとジョン・F・ケネディ

同じ年に生まれた二脚の椅子ですが、現在の市場価格には大きな開きがあります。ザ・チェアが高価である理由は、今もなお少量生産の「座る彫刻」であり、手仕事の芸術性を色濃く残しているから。一方のYチェアは量産を可能にしながらもクラフトの温かみを残した「日常の椅子」であり、広く普及したからです。

言い換えれば、ザ・チェアは空間の主役となる存在感を放ち、Yチェアは暮らしに寄り添い日常を彩る存在。ウェグナーが1949年という同じ一年に、この二つの極をデザインしたこと自体が驚きであり、彼のデザインレンジの広さを雄弁に物語っています。

芸術と日常、クラフトと工業。その両端を同時に成立させたウェグナーの手腕を思うと、1949年という年がいかに特別だったかを実感せずにはいられません。

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