エッグチェア|ホテルのロビーに、落ち着ける居場所を。

Arne Jacobsen / 1958
エッグチェアは、アルネ・ヤコブセンがコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのためにデザインしたラウンジチェアです。
1958年に発表され、1960年に開業したホテルのロビーや客室などで使われました。
一番の特徴は、背中から身体の左右までを囲む、大きな背もたれ。
周囲の人の動きが見えなくなるので、人の行き来がある場所でも、落ち着いて座ることができます。
この丸いたまご形を実現するために、当時の新しい成形技術が使われました。
そして張地の布や革は、いまも職人の手で一針一針張り上げられています。
航空会社がつくったホテルのために

SASロイヤルホテルは、スカンジナビア航空のために計画された、ホテルと航空旅客ターミナルを備えた建物です。
設計はアルネ・ヤコブセン。
ホテルに先立って1959年に開いたターミナルでは、乗客がチェックインを済ませ、バスで空港へ向かうことができました。宿泊する人だけでなく、飛行機を待つ人も利用する場所だったそうです。

ヤコブセンは建物に加えて、家具や照明、ドアハンドル、食器などもデザインしました。エッグチェアとスワンチェアもこの計画の中から生まれています。

建物の外観は、ガラスと直線的な格子が特徴のモダンな建物です。
その一方で、室内には丸みのある椅子や、さまざまな色と質感の素材が取り入れられ、その対比が上質さを感じさせる空間となっていました。
曲面を可能にした、新しい材料

この複雑な曲面を、実際に製品としてつくるためには、新しい製造技術が必要でした。
当時のデンマーク家具では、木材を削ったり曲げたりして、フレームや背もたれをつくる方法が主流でした。
しかし、エッグチェアには別の方法が採用されました。
フリッツ・ハンセンが1950年代に導入した、硬質の発泡素材を成形する技術です。
現在のエッグチェアも、ガラス繊維で補強されたポリウレタンフォームのシェルを基本構造とし、その上にクッション材を成形して、布や革で張り上げています。
木製の骨組みにクッションを取り付けるのではなく、シェルそのものが大きく曲がりながら、身体を支える形になっているのです。
この技術によって、背もたれ、肘掛け、座面が連続する、従来の木製家具とは異なる形が実現しました。
模型を直しながら決めた形

ヤコブセンは、この椅子の形を考えるために、自宅のガレージでワイヤーや石膏を使って模型を制作していました。
模型制作に携わったサンドール・ペリエシの回想には、模型を車で別荘に運び、週末を使って材料を盛ったり削ったりした話が残っています。図面を描くだけでなく、実際に立体をつくって修正を重ねていたことが分かります。
エッグチェアは複雑な形を、模型で確かめながら調整していたのです。
布や革を、曲面に合わせて張る

エッグチェアは、芯材の形ができれば完成するわけではありません。その曲面に合わせて、布や革を張る作業が必要です。
背もたれの内側はくぼみ、外側は大きくふくらんでいます。さらに肘掛けの周辺では、曲がる方向も変わります。平らな張地をこうした形に沿わせ、しわやたるみを抑えて仕上げるには、技術が必要です。
フリッツ・ハンセンの製造紹介でも、革を選び、裁断し、手作業で張り上げる工程が紹介されています。縫製にも手縫いの作業が含まれています。
特に革は、種類によって硬さや伸び方が異なります。張り職人も、仕上げに必要な時間は素材によって変わると説明しています。同じ形の椅子でも、材料に合わせた作業が必要なのです。
ぜひ背もたれの縁や肘掛けの曲がる部分を見てみてください。張地がどのように曲面に沿い、どこで縫い合わされているか、こうした仕上がりもエッグチェアの見どころです。
高い背もたれと、回転する座面

エッグチェアは、中央の支柱と四つに分かれた脚で本体を支え、座面を回転させられる構造です。背を預けたときに本体が後ろへ傾くチルト機構も備えています。
高い背もたれで身体の周囲を囲みながら、向きを変えることもできる。
ホテルのロビーでは、人と向かい合ったり、向きを変えて一人で過ごしたりする際に役立つ組み合わせです。
ご自宅でも、テレビを見る方向と、家族と話す方向が違う場所などで、回転機能を生かせます。