カラヴァッジオ Opal|灯りをつけると、素材の話が始まる

同じかたちでも、光はこんなに違う。
照明を選ぶとき、私たちはまず、その形や色に目を向けることが多いと思います。
部屋の雰囲気に合うだろうか。テーブルの大きさと釣り合っているだろうか。家具との組み合わせを考えながら、気に入ったデザインを探していきます。
けれど、照明にはもうひとつ、忘れてはいけないことがあります。
それは、灯りをつけたときに、どんな光が生まれるのかということです。
デンマークのデザイナー、セシリエ・マンツが手がけた「カラヴァッジオ Opal」は、その違いを考えるうえで、とても興味深い照明です。
乳白色のガラスを使った、柔らかな曲線のシェード。
昼間は白い器のように静かな佇まいですが、灯りをつけると、シェード全体が柔らかく光を放ち始めます。
形だけでなく、素材そのものが光の表情を変える。
そんな照明の面白さを感じられる一灯です。
黒いシェードと赤いコードから始まった
カラヴァッジオが発表されたのは、2005年のことです。
デザインを手がけたのは、1972年生まれのデンマーク人デザイナー、セシリエ・マンツ。
家具や照明、食器、オーディオ機器など、幅広い分野で活躍する、現代のデンマークを代表するデザイナーの一人です。
カラヴァッジオは、当時のデンマークの照明ブランド「Lightyears(ライトイヤーズ)」のためにデザインされました。
最初に発表されたモデルは、光沢のある黒い金属製のシェードに、鮮やかな赤いコードを組み合わせたものでした。
ふっくらとした柔らかな曲線を描くシェードと、それを支える細い金属の部品。
決して複雑な構造ではありませんが、よく見てみると、それぞれの部材の形や組み合わせ方が丁寧に考えられています。
金属製のシェードは光を下方向へ導き、テーブルなど必要な場所を照らします。
一方、シェードの上部には小さな開口があり、そこから漏れる光が、シェードを支える金属部品やコードを照らすようになっています。
照明の下だけでなく、照明そのものがどのように見えるのか。
そこまで考えられていることが、このデザインの面白さです。
カラヴァッジオはその後、サイズやカラー、仕上げの異なるモデルへと展開され、2008年には乳白色のガラスを使った「Opal」が登場しました。
2015年にライトイヤーズがフリッツ・ハンセンに買収されてからは、同社の照明コレクションとして展開されています。
白い金属と、白いガラス
カラヴァッジオには、白い金属製シェードのモデルもあります。
そしてOpalも、灯りを消した状態では白い照明に見えます。
しかし、この二つを点灯させると、その違いははっきりと表れます。
金属製のシェードは光を透過しないため、光は主に下方へ向かいます。
テーブルの上を照らしながら、その周囲には適度な陰影が生まれます。
一方、Opalでは、シェード自体が光を通します。
下方向へ光を届けるだけでなく、乳白色のガラス全体から、柔らかな光が周囲へと広がっていきます。
白いガラスが内側から照らされることで、シェードの曲線も美しく浮かび上がります。
同じ形の照明でも、素材が変わるだけで、光の広がり方や空間の印象は変わるのです。
これは、家具の素材選びにも少し似ているように思います。
同じ形の椅子でも、木製のものと布張りのものでは、見た目も手で触れたときの感触も異なります。
照明もまた、素材が持つ性質によって、その役割や表情が変わります。
照明を選ぶということは、器具のデザインを選ぶだけでなく、そこで過ごす時間の明るさを選ぶことでもあるのだと思います。
手吹きガラスがつくる、柔らかな光
カラヴァッジオ Opalのシェードには、3層構造のオパールガラスが使われています。
職人が一つひとつ吹いて成形するガラスです。
乳白色のガラスを光が通過すると、内部の光が拡散され、柔らかな明るさが生まれます。
金属製のシェードが光を遮り、その方向を制御するのに対して、オパールガラスは光を通しながら、広げていく役割を持っています。
ここで興味深いのが、ガラスそのものの表情です。
手吹きで製作されるため、シェードには小さな気泡が入ったり、厚みにわずかな違いが生じたりすることがあります。
機械で均一に成形されたものとは異なり、一つひとつのガラスには、製作過程で生まれる個性が残っています。
昼間、自然光の下で眺めたとき。
そして夕方、室内が少し暗くなってから灯りをつけたとき。
同じガラスでも、光の当たり方によって見える表情は変わります。
照明は、夜に灯して使うためのものですが、昼間も部屋の中に置かれている家具のひとつです。
消灯時の姿と、点灯したときの姿。
その両方を楽しめることも、カラヴァッジオ Opalの魅力ではないでしょうか。
柔らかな曲線を支える、細い金属
カラヴァッジオ Opalを見るときには、ガラスシェードの上部にも目を向けてみてください。
ふっくらとしたガラスを支えているのは、3本の細い金属部品です。
滑らかな曲面を描くガラスに対して、金属の部品は細く、精密な印象があります。
それらを隠すことなく、照明全体の形の一部として見せているところが、この製品の特徴です。
また、天井から伸びるコードには、布で覆われたテキスタイルコードが採用されています。
通常の電気コードとは異なる質感があり、シェードを吊るすための一本の線として、照明のデザインに加わっています。
ペンダントライトは、シェードだけで完結するものではありません。
天井からどれほどの長さで吊るすのか。コードがどのように見えるのか。どの高さにシェードが収まるのか。
そのすべてが、部屋の印象に関わってきます。
カラヴァッジオ Opalは、そうした細かな部分にも、セシリエ・マンツの造形に対する考え方を感じられる照明です。
光を必要な場所へ、そして周囲へ
照明の役割は、部屋をただ明るくすることだけではありません。
たとえばダイニングでは、食卓に並んだ料理や、一緒に食事をする人の表情が心地よく見えることが大切です。
そのためには、テーブルの上に必要な明るさを確保することと、周囲の空間にどのような光を広げるか、その両方を考える必要があります。
カラヴァッジオ Opalは、下方向への光を持ちながら、シェード全体を通して周囲にも柔らかな光を届けます。
テーブルの上だけが照らされるのではなく、空間の中に、もうひとつ柔らかな明るさが生まれるような印象です。
もちろん、照明の大きさや電球の明るさ、吊るす高さによって、実際の光の広がり方は変わります。
小さな照明を一灯だけ吊るすのか、いくつか並べるのかによっても、部屋の雰囲気は異なります。
だからこそ、照明を選ぶときには、その照明がどれだけ明るいかという数字だけでなく、どこに、どのような光を届けたいのかを考えてみたいところです。
小さなP1がつくる、居場所の明かり
今回、I’m waitingで開催するフリッツ・ハンセンカフェでは、カラヴァッジオ OpalのP1を展示する予定です。
P1は、直径16.5cm、高さ21.6cmの小ぶりなペンダントライトです。
ダイニングテーブル全体を大きなシェードで照らす使い方とは異なり、カウンターや小さなテーブルの上など、比較的限られた場所に光を届ける使い方にも適しています。
たとえば、二人で向かい合って座る小さなテーブルの上に、ペンダントライトを一灯吊るす。
それだけで、室内の中に、食事や会話を楽しむための場所が自然と生まれます。
もちろん、P1の一灯だけで広い部屋全体を明るくすることは難しいでしょう。
けれど、必要な場所にだけ適切な明かりを置き、ほかの照明と組み合わせることで、部屋全体を均一に照らすのとは違った心地よさをつくることができます。
照明は、家具とは少し違う方法で、空間の中に居場所をつくってくれる存在なのだと思います
暮らしの時間に合わせて、光を考える
私たちは、一日の中でさまざまな明るさの中を過ごしています。
朝、カーテンを開けて自然光を取り入れるとき。
日が暮れて、室内の照明をつけるとき。
夕食を終えて、少し落ち着いた時間を過ごすとき。
必要な光は、その場面によって変わります。
明るい方が過ごしやすいときもあれば、少し照明を落とした方が心地よく感じるときもあります。
一日中、部屋全体を同じ明るさにしておく必要はありません。
食卓を照らす光。ソファのそばに置く光。部屋の奥を柔らかく照らす光。
それぞれの役割を持った照明を組み合わせることで、暮らしの中にさまざまな表情が生まれます。
カラヴァッジオ Opalは、照明をそうした視点から選ぶ楽しさを感じさせてくれる製品です。
今回のフリッツ・ハンセンカフェでは、I’m waitingの美しい空間の中で、この照明をご覧いただけます。
昼間の自然光の下での姿と、実際に灯したときの光。
できれば、その両方を見比べていただけたらと思います。
そして、照明の形だけではなく、そこから生まれる明るさにも、少し目を向けてみてください。
毎日繰り返される、何気ない時間。
その時間を少し心地よくすることも、照明の大切な役割なのだと思います。